西欧や中国のファインアートと比べてみると、日本の素朴絵の個性がみえてくる
2019年11月17日まで、龍谷ミュージアムで開催されている特別展「日本の素朴絵ーゆるい、かわいい、楽しい美術ー」にあわせて、記念講演『日本の素朴絵ーゆるカワ日本美術史ー」矢島 新氏のお話を聴かせていただきました。大津絵や仙厓さんの絵に惹かれる人が多くなっているいま、待望の講演会でした。
西洋名画のようにリアリズムを目指さない大らかな具象画=素朴絵と表現して、その魅力を多くの人に伝えている矢島 新氏。現在は跡見学園女子大学の教授ですが、前職は渋谷区松濤美術館のキュレーター。限られた予算の中で年に数回開催しなければならない企画展では、重要文化財のような権威のある美術品を多数出展することは難しく、知恵を絞る日々。魅力的で価値あるにも関わらず、ファインアートの範疇に収まらない味わい深い美術品をテーマにあわせて編集し発表していたそうです。2008年に開催した「素朴美の系譜〜江戸から大正・昭和へ」が注目を集め、『日本の素朴絵』の出版と繋がりました。
日本の素朴絵を理解するうえで、西洋の名画(ファインアート)と比較してみると、その個性が鮮明に浮かびあがります。
- 日本の素朴絵 デフォルメ (顔の簡略化、動物の擬人化)
ゆるい曲線 (机の線もふにゃふにゃ)
オリジナリティ(わかる人にはわかる味わい)
庶民のため (普通のおうちでも楽しまれてたもの) - 西洋名画 リアリズム (筋肉や表情のリアルさ)
シャープな直線(十字架はもちろん真っすぐ)
普遍的 (明快な美的基準に基づく表現)
権力者のため (教会や王侯貴族の邸宅を飾る)
中国の洗練された美術品に憧れた平安の王朝人も、西洋の文化の吸収に邁進した明治の人々も海外の美術の輸入に忙しくなると、素朴絵は影を潜めるも、その流れは日本人の美意識の中に受け継がれ令和のいま「ゆるい、かわいい」と形容され、また人々を虜にしているのです。
展示構成
第1章 絵巻と絵本
第2章 庶民の素朴絵
第3章 素朴な異界
第4章 知識人の素朴絵
第5章 立体にみる素朴
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龍谷ミュージアム
■京都市下京区堀川通正面下る(西本願寺前)
TEL. 075-351-2500
■開館時間
午前10時~午後5時 ※入館受付は午後4時30分まで
■休館日
毎週月曜日 ※祝日は開館(翌日は休館日)その他ミュージアムの定める日
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矢島 新 Yashima Arata
1960年、長野県上田市生まれ。東京大学大学院博士課程中退。渋谷区立松濤美術館学芸員を経て、現在跡見学園女子大学教授。近世の宗教美術を中心に、日本美術のオリジナリティについて考えている。共著に『日本美術の発見者たち』(辻 惟雄、山下裕二共著、東京大学出版会、2003年)、著書に『木喰仏』(東方書店、2003年)、『近世宗教美術の世界』(国書刊行会、2008年)、『日本の素朴絵』(ピエ・ブックス、2011年)